archief voor stambomen

系統樹ハンターの狩猟記録

紋章の系統樹

昨年出した『系統樹曼荼羅』の p. 228 に「紋章の系統樹」が載っている.西暦760-780年に著されたという元の彩色写本(聖書)は下記から閲覧できる:

St. Gallen, Stiftsbibliothek, , p. 1

http://www.e-codices.unifr.ch/en/csg/1084/1

典型的な「エッサイの樹」である.旧約聖書にある「エッサイの樹」がステンドグラスや図版として出現するのは12世紀以降だから,この紋章系統樹はその先駆かもしれない.

 

f:id:leeswijzer:20130220225337j:plain

ウェブ・ブラウザーの系統発生

灯台下暗し. “日常” のすぐ側にこんな巨大な系統樹があった.1990年以降現在にいたるウェブ・ブラウザーの系統発生が詳細にたどられている:


 

Timeline of Web Browsers

http://en.wikipedia.org/wiki/Timeline_of_web_browsers

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/74/Timeline_of_web_browsers.svg

※なんて巨大な.

 

An Interactive Timeline of Browser History

http://www.visualnews.com/2011/09/01/an-interactive-timeline-of-browser-history/

http://evolutionofweb.appspot.com/ ※あ.これスゴイかも.

 

f:id:leeswijzer:20130219102856p:plain


 

ルーツの「NCSA Mosaic」ってあまりに懐かしすぎる!

かなり古いけど解説記事あり:Gigazineウェブブラウザの進化系統図」(2007年6月26日)

トヨタ自動車75年史:車両系統図

これはスゴイ!

http://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/vehicle_lineage/family_tree/index.html

トヨタのサイトで公開されたタテ・ヨコ伸縮自由自在の車両系統樹.祖先ノードにカーソルを置くと車両イメージがポップアップ.さらに車名・ボデータイプ・年代から系統樹内検索ができる.pdf版もあわせてダウンロードできる.この製品系統樹の仕上がりはタダものではない.さすがトヨタ.見るべし読むべし.

オーストロネシア語の祖語復元

Alexandre Bouchard-Côté, David Hall, Thomas L. Griffiths, and Dan Klein

Automated reconstruction of ancient languages using probabilistic models of sound change

PNAS February 11, 2013 | doi: 10.1073/pnas.1204678110

http://www.pnas.org/content/early/2013/02/05/1204678110 [abstract]

http://www.pnas.org/content/early/2013/02/05/1204678110.full.pdf+html [pdf: open access]



IPA配列に関するベイズ言語系統推定をして,さらに祖先復元をしたという報告.

 

Nature 解説記事は:

Philip Ball | Computer program roots out ancestors of modern tongues: Automated reconstruction of long-extinct languages can test theories on how words evolve | Nature 11 February 2013 | doi:10.1038/nature.2013.12407

http://www.nature.com/news/computer-program-roots-out-ancestors-of-modern-tongues-1.12407

 

日本語解説記事は:

Wired「諸言語の源「祖語」をコンピューターで復元」(2013年2月13日)

http://wired.jp/2013/02/13/protolanguage-generator/

国立民族学博物館国際シンポジウム〈「樹」について考える〉

生物系統学・歴史言語学・写本系図学にまたがる「樹」に関する国際シンポジウム.英文報告集の出版が予定されている.

 


言語の系統関係を探る:その方法論と歴史学研究における意味〉2012年度第3回研究会「「樹」について考える」(→ プログラム).2013年2月10日(日)9:00~18:30,国立民族学博物館・第4セミナー室,吹田.

  1. 【趣旨説明】「言語学における系統図:なぜ今、樹について考えるのか」菊澤律子(国立民族学博物館abstract
  2. 言語学におけるツリーモデル】「言語学におけるさまざまなツリー(および他の)モデル」セーレン・ウィッチマン(マックスプランク進化人類学研究所)abstract
  3. 【遺伝学におけるツリーモデル】「進化遺伝学における系統解析」 木村亮介(琉球大学亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構)和文要旨abstract
  4. 【系統学】「生物・写本・言語におけるツリーとネットワーク:系統推定論における構造モデル選択について」三中信宏農業環境技術研究所東京大学大学院農学生命科学研究科)和文要旨abstract
  5. 【歴史言語学】「東アジアにおける大言語族の系統樹を見直す」ウィーラ・オスタピラト(タイ・マヒドール大学)abstract
  6. 【文献学】「死語の方言と系統樹モデル―中世イラン語東方言を例に」吉田豊京都大学和文要旨abstract
  7. 【オーストロネシア諸語をめぐるケーススタディ1】「異系統の言語を樹形図に組み込む―フィリピン・ネグリート族の言語を例に」ローレンス・A・リード(ハワイ大学abstract
  8. 【オーストロネシア諸語をめぐるケーススタディ2】「樹形モデルの限界―北ヴァヌアツの言語を例に」 シヴァ・カリヤン(ノーザンブリア大学)・アレクサンドル・フランソワ(CNRS/LACITO)abstract
  9. 【コメンテーター】斎藤成也(国立遺伝学研究所/総合研究大学院大学/東京大学大学院理学系研究科)

民話の文化系統学

Robert M. Ross, Simon J. Greenhill, and Quentin D. Atkinson

Population structure and cultural geography of a folktale in Europe

Proc. R. Soc. B | Published online February 6, 2013 | doi: 10.1098/rspb.2012.3065 | abstract | html | pdf [open access]

この論文では,ヨーロッパに広く伝承されているある昔話の文化的変異とそれを伝える人間集団の遺伝的変異とを系統学的に照らしあわせた.この昔話700バージョン間の系統関係は NeghborNet を用いた系統ネットワークとして,一方,ヨーロッパに分布する38の人間集団の分化は AMOVA を用いて解析している.

民話の系統については,比較法(the comparative method)にからめて,以前こう書いたことがある:


歴史推定のための比較法を確立した比較文献学や比較言語学は,さらに民俗学の方法論にも大きな影響を残したと岩竹(1999)は指摘しています.確かに,「民俗学は現在事象の分類比較によって,過去の変遷推移を跡づけ,その原初形態をもたづねようとする」(堀 1976:岩竹 1999に引用)という学問目標の設定の中に,比較法のモチーフを読み取ることはきわめて容易です.たとえば,フィンランド学派民俗学の始祖であるカールレ・クローンの『民俗学方法論』(クローン 1940)には,民間伝承(民話)の基本様式を再建するために地理的に多岐にわたる類似伝承を相互比較するという基本方針が述べられています.これは,まさに比較法の精神そのものです.(三中信宏系統樹思考の世界』第2章第3節, pp. 109-110)

  • 岩竹美加子 1999. 「重出立証法」・「方言周圏論」再考(1)〜(3). 未来, (396): 13-21; (397): 6-16; (399): 30-35.
  • 堀一郎 1976. 民俗学的研究に於ける時代区分の問題−民俗学的領域と方法. 所収:日本文学研究資料刊行会編『柳田国男』有精堂.
  • カールレ・クローン 1940. 民俗学方法論. 関敬吾訳,岩波書店,東京.

 

上の論文は結論としてこう述べている:


While there exist important disanalogies between cultural and biological processes, particularly with regard to micro-evolutionary transmission mechanisms [33,59], our findings suggest that methods and theory from population genetics can nonetheless be usefully applied to characterize population structure and variation in cultural packages such as folktales.


 

分子系統学と文化系統学の analogy と disanalogy の見極めは興味深い.

 

[解説記事]ナショナルジオグラフィック ニュース「昔話は遺伝子よりも伝わりにくい」(2013年2月7日).

音楽リズムの系統推定

音楽リズムの距離と形質状態に基づく系統推定の論文:


Godfried T. Toussaint, Luke Matthews, Malcolm Campbell, and Naor Brown

Measuring musical rhythm similarity: Transformation versus feature-based methods

Journal of Interdisciplinary Music Studies, volume 6, issue 1, art. #12060102, pp. 23-53, spring 2012

Journal Website: http://www.musicstudies.org/

Paper pdf: http://www.musicstudies.org/Toussaint_JIMS_12060102.pdf [open access]


距離法(「feasture-based method」)はユークリッド距離とマンハッタン距離を用いている.一方,形質状態行列からの MrBayes によるベイズ系統推定(「transformation method」)を行なった上で,音楽学における系統推定では,距離法ではなくベイズ法がすぐれていると結論する.

Copyright © 2012-2014 MINAKA Nobuhiro. All rights reserved