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archief voor stambomen

系統樹ハンターの狩猟記録

パスタの形態測定学 - 系統と進化(続)

先日書いた記事の本:

George L. Legendre / Foreword by Paola Antonelli

Pasta by Design

2011年刊行,Thames & Hudson, ISBN:9780500515808

http://www.thamesandhudson.com/9780500515808.html

が届いたので,隙間時間にめくり始めている.約200枚の図版があり,うち半分はパスタの実物カラー写真,残りは数式モデルでシミュレートされたパスタ形状の三次元グラフとその二次元断面図だ.もちろん,パスタは食材なので茹で時間や,代表的レシピが簡単に記されている.

序文「パスタの本質をとらえる」で,著者は本書の目指すところを次のように述べている(pp. 008-009):


This book takes on the challenge of classifying these pasta types in its own unique way. Freely inspired by the science of phylogeny (the study of relatedness among groups of natural forms). Pasta by Design pares down the startling variety of pasta to ninety-two types, divided according to their morphological features, and chart them in the Family Tree (pages 010-011). Each member of the family is then illustrated by its parametric equations, a 3D diagram and a specially commissioned photograph by Stefano Graziani.  


巻頭にはパスタの系統樹(見開き2ページ)および巻末には詳細系統樹(表裏計8ページ)が折り込まれている.パスタの系統樹はヴィジュアル的にとても魅力的だ.しかし,このパスタの系統樹そのものはリアルな意味での“系統発生”というよりは,類似形質を階層的に配置した樹形図の色合いが濃いようだ.巻頭の全体図の構築に用いられているパスタの“形態的形質”(縁・表面・断面・全体形状)に沿って二次元マップ化した樹形図が巻末の巨大な折込図版である.

要するに,本書は,パスタの形状を数理モデルを用いて記述することにより,かたちの「本質」を抽出しようという試みである.パスタの種類によっては,リングイネやクアドレッティのように単純な数式モデルですむものもあれば,表紙を飾るファルファローニやコロネ・ポンペイのように複雑極まりない数式を要求する形状もある.単なる記述モデルとして眺めても,ここまでこだわるかとあきれるほどパスタごとに精緻なモデルが記されている.その熱意はただものではない.それ以上に,いまだ食べた経験がないパスタも多々ある.パスタの“種分化”は侮るべからず.

それぞれの数理モデル(変数範囲まで含めて)は詳細に記されているので,Mathematica や R が使える環境にある読者ならば,自分で試してみることもきっと可能だろう.

ただし,本書の形態数理モデルはいかに現実のパスタの“かたち”をリアルに再現できるかに主眼が置かれているようだ.その意味では「記述的」な数理モデルの使い方かもしれない.古生物学で実践されてきた理論形態学(theoretical morphology)のように,モデルのパラメーターを変えて生じる仮想パスタの“かたち”を見てみたい気になる.系統樹上で同じ“単系統群”に属するパスタであっても,数理モデルの基本構造は必ずしも共通してはいないようだ.貝殻の形態記述数理モデルの「系統推定」の例がすでに発表されている.パスタの数理モデルの多様性をその embranchements ごとにでも(全体はムリっぽいから)系統推定できればさらにおもしろいかもしれない. 

ひとつ気になるのは,パスタマシンとの関係.それぞれのパスタは機械的に製造されているものと思うが,それぞれのパスタマシンはパスタごとに“特殊化”しているのだろうか.パスタマシンの系統発生にも関心が向いてくる.実際には,イタリアの地でパスタはリアルな“系統分岐”を経験したにちがいない.その時空的な歴史を推定することもきっと可能だろう.

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