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系統樹ハンターの狩猟記録

チュブリラ本系列成立の歴史

@rhenin センセイのモノローグ:

チュブリラ本系列成立の歴史

http://togetter.com/li/78382

早稲田大学の試験直前におけるノート書写で生じたミス(「キューブリック」→「チュブリラ」)がその後の「伝承」の過程で「チュブリラの樹」を形成したというお話.かの「棒の手紙http://homepage3.nifty.com/hirorin/bonotegami.htm とまったく同じ書写心理プロセスが作用したのだろうか.

チベット医学の「樹」:Medical Thangka

チベット医学の体系を「タンカ(thangka)」という掛け軸の絵として可視化された「樹」がある:

 

1) 治療の樹

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/93/A_Medical_Thangka_-_Root_of_Treatment.jpg

 

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2) 健康と疾病の樹

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d2/A_Medical_Thangka_-_Root_of_Health_and_Disease.jpg

 

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ヒトの指紋の系統図

1943年に出版された:Harold Cummins and Charles Midlo (1943 Finger Prints, Palms and Soles: An Introduction to Dermatoglyphics. Blakiston Company に載っている指紋系統図.Family tree と銘打たれているが,もちろん指紋パターンを樹形に体系化したダイアグラムである:

Hand Facts: News about hands!

A ‘family tree’ of the fingerprints! (10 September 2010)

http://handfacts.wordpress.com/2010/09/03/a-family-tree-of-the-fingerprints/

 

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絨毯模様の文化系統樹

前記事「織物模様の文化系統樹」に続いて,「絨毯模様の文化系統樹」の論文も同じ PLoS ONE に出ていた:

Matthews LJ, Tehrani JJ, Jordan FM, Collard M, Nunn CL (2011)

Testing for Divergent Transmission Histories among Cultural Characters: A Study Using Bayesian Phylogenetic Methods and Iranian Tribal Textile Data.

PLoS ONE 6(4): e14810. doi:10.1371/journal.pone.0014810

http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0014810

この論文では,いわゆる「ペルシャ絨毯」の模様を構成する要素が,文化史的に別々の系譜をもっているかどうかを,ベイズ系統解析によってアプローチした.

金管楽器コルネットの系統発生

アメリカ自然史博物館の三葉虫学者 Niles Eldredge  http://www.nileseldredge.com/NELE.htm が十年ほど前から,金管楽器コルネットの「系統樹」の推定を手がけている.ある論文集 http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/PA/MA.html への寄稿で,Eldredgeは,分岐学が生物のみならず言語や写本の系統推定の方法論として注目されるようになった歴史的経緯を振り返り,cultural phylogeny を復元する上での方法論的な問題点のいくつかを指摘する.彼は,生物系統樹の場合は形質の変換系列として共有派生形質の相同性が仮定できることが多いが,文化系統樹の場合はそうはいかないケースが少なくないだろうという:


But often in design history such is not the case. Rather, humans invent alternative solutions to the same problem — a sort of planned, deliberate convergence that nonetheless purposefully does not end up in confusingly similar states. This is homoplasy of a rather different sort. (p. xvi)


文化系統では表現型として“似ていない”ホモプラジーが多いという例の一つとして,彼自身が調べた楽器コルネットの「進化」に言及している(N. Eldredge 2003. Mme F. Besson and the early history of the Périnet valve. The Galpin Society Journal, 56: 147-151).The Galpin Society というのは「楽器史」を研究するコミュニティーのようだ.この論考で,彼は,ふつうよく見るトランペットの「ヴァルヴ」の“系統発生”を考察している(みたい:未見).金管の機能長を変更する「ヴァルヴ」の機構 — ピストンかそれともロータリーか — は表形的には似ていないがホモプラジーだと彼は結論している(のだろう).こういうネタはとてもおもしろい.

  • Niles Eldredge 2003. Mme F. Besson and the early history of the Périnet valve. The Galpin Society Journal, 56: 147-151 abstract
  • Ilya Tëmkin and Niles Eldredge 2007. Phylogenetics and material cultural evolution. Current Anthropology, 48(1): 146-153 pdf

パン袋クリップ(Occlupanida)の系統樹

HORG - The Holotypic Occlupanid Research Group : A Database of Synthetic Taxonomy なるヒミツ機関では,スーパーなどでパン袋の口を留めているクリップである「occlupanids」の分類と系統を日夜研究しているという:

http://www.horg.com/horg/

https://www.facebook.com/occlupanid

Occlupanida の語源は「Occlu=to close, pan= bread」である.汎世界的に分布するこの分類群は形態・分類・系統に関してすでに知見が蓄積されていて,上記サイトで公開されるとともに,査読誌にも掲載されている:

Larisa M Lehmer, Bruce D Ragsdale, John Daniel, Edwin Hayashi, Robert Kvalstad
Plastic bag clip discovered in partial colectomy accompanying proposal for phylogenic plastic bag clip classification
BMJ Case Reports 2011; doi:10.1136/bcr.02.2011.3869 → abstract

参考記事:

http://www.tumblr.com/tagged/phylogeny?before=1317134468

http://wnycradiolab.tumblr.com/post/41365498500/you-know-those-little-things-that-keep-bread-bags

 

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宮沢賢治と早田文蔵:華厳経の「インドラの網」と高次元分類ネットワークとの関係

先日読了した:野村哲也カラー版・世界の四大花園を行く―砂漠が生み出す奇跡』(2012年9月25日刊行,中央公論新社中公新書2182],東京,198 pp., ISBN:9784121021823版元ページ著者サイト)の中に,とても興味深い一節があった.著者は,南米チリのとある谷で瞑想するバルデス師との対話を通して:


バルデスの話を聞きながら,僕は宮沢賢治の「インドラの網」という童話を思い出していた.華厳経に説かれるインドラの網は,インドの勇猛な神「帝釈天」の宮殿にかけられた,巨大な球状の網のこと.その結び目には,美しい水晶の宝珠が縫い込まれ,全体が宇宙そのものを表現しているとされる.また宝珠の一つひとつが他の一切の宝珠を映し込んでいることから,ひとつの宝珠に宇宙のすべてが収まっている,というようにも考える.(pp. 192-194)


と書き記している.あれれ,どこかで聞いたことのある文章だと思って,自分の本を検索したらすぐヒットした.以下は『分類思考の世界』の「インテルメッツォ:実在是表象,表象是実在(二〇〇七年ニューオーリンズ,アメリカ)」冒頭の引用文だ(p. 146):


Hier möchte ich zur Erläuterung meiner Auffassung der Einzelwesen oder der Species und Gene ein Gleichnis anfügen. Das Universum ist gleichsam ein grenzenloses Netz mit unzählbaren Millionen von kristallenen Kügelchen. Jedes der Kügelchen sitzt auf einer Masche von verschiedener Farbe; jedes wirft die Bildchen der anderen Kügelchen zurück und jedes zeigt infolgedessen, der Lage der Beobachters gemäß, verschiedene Schattierungen. Sie sind jedoch nur in ihrer Erscheinung für das Auge des Beobachters verschieden, in ihrem reellen Sein sind sie alle und immer dieselben kristallenen, farbenlosen Kügelchen. (Bunzô Hayata 1931. Über das “dynamische System” der Pflanzen. Berichte der Deutschen Botanischen Gesellschaft, 49: 328-348, p. 346)

[訳文]ここで,それぞれの種や遺伝子を私がどのように理解しているかを示すためにこんなたとえ話をしてみよう.この宇宙はおびただしいガラス玉がつながってできる広大無辺なネットワークである.それぞれのガラス玉は色の異なる網の上にあって,他のガラス玉の像を反射する.その結果,観察者が見る位置によって異なる模様が現れることになる.しかし,それは観察者の目には異なって見えるにすぎない.実際に存在するのはすべて同じ無色のガラス玉だからである.(早田文蔵 1931, 「植物ノ動的分類體系ニ就キテ」ドイツ植物学会会報, 49: 328-348, p. 346)


早田文蔵はこの論文の中で,華厳経の宗教的啓示を受けて,「動的分類学(dynamische Taxonomie)」という新たな分類学の考え方を提唱したと明言している.彼の動的分類学を支える高次元ネットワーク概念が,華厳経のこの「インドラの網」だったことがやっとわかって,長年の未解決問題にやっと決着が着いた.

なお,本書で言及されている宮沢賢治の作品「インドラの網」は青空文庫ですでに公開されている.関係のある一節は下記の通り(ルビ削除):


「ごらん、そら、インドラの網を。」
 私は空を見ました。いまはすっかり青ぞらに変ったその天頂から四方の青白い天末までいちめんはられたインドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、透明清澄で黄金でまた青く幾億互に交錯し光って顫えて燃えました。


早田文蔵と宮沢賢治華厳経の「インドラの網」を介してつながった瞬間.

早田文蔵の描いた「インドラの網」に基づく「高次元ネットワーク図」とは,彼の論文:Bunzô Hayata 1921. The natural classification of plants according to the dynamic system. 臺灣植物圖譜・臺灣植物誌料・第拾巻,臺灣總督府民政部殖産局編,pp. 97-234に付された下記の彩色図版である:

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パスタの形態測定学 - 系統と進化(続)

先日書いた記事の本:

George L. Legendre / Foreword by Paola Antonelli

Pasta by Design

2011年刊行,Thames & Hudson, ISBN:9780500515808

http://www.thamesandhudson.com/9780500515808.html

が届いたので,隙間時間にめくり始めている.約200枚の図版があり,うち半分はパスタの実物カラー写真,残りは数式モデルでシミュレートされたパスタ形状の三次元グラフとその二次元断面図だ.もちろん,パスタは食材なので茹で時間や,代表的レシピが簡単に記されている.

序文「パスタの本質をとらえる」で,著者は本書の目指すところを次のように述べている(pp. 008-009):


This book takes on the challenge of classifying these pasta types in its own unique way. Freely inspired by the science of phylogeny (the study of relatedness among groups of natural forms). Pasta by Design pares down the startling variety of pasta to ninety-two types, divided according to their morphological features, and chart them in the Family Tree (pages 010-011). Each member of the family is then illustrated by its parametric equations, a 3D diagram and a specially commissioned photograph by Stefano Graziani.  


巻頭にはパスタの系統樹(見開き2ページ)および巻末には詳細系統樹(表裏計8ページ)が折り込まれている.パスタの系統樹はヴィジュアル的にとても魅力的だ.しかし,このパスタの系統樹そのものはリアルな意味での“系統発生”というよりは,類似形質を階層的に配置した樹形図の色合いが濃いようだ.巻頭の全体図の構築に用いられているパスタの“形態的形質”(縁・表面・断面・全体形状)に沿って二次元マップ化した樹形図が巻末の巨大な折込図版である.

要するに,本書は,パスタの形状を数理モデルを用いて記述することにより,かたちの「本質」を抽出しようという試みである.パスタの種類によっては,リングイネやクアドレッティのように単純な数式モデルですむものもあれば,表紙を飾るファルファローニやコロネ・ポンペイのように複雑極まりない数式を要求する形状もある.単なる記述モデルとして眺めても,ここまでこだわるかとあきれるほどパスタごとに精緻なモデルが記されている.その熱意はただものではない.それ以上に,いまだ食べた経験がないパスタも多々ある.パスタの“種分化”は侮るべからず.

それぞれの数理モデル(変数範囲まで含めて)は詳細に記されているので,Mathematica や R が使える環境にある読者ならば,自分で試してみることもきっと可能だろう.

ただし,本書の形態数理モデルはいかに現実のパスタの“かたち”をリアルに再現できるかに主眼が置かれているようだ.その意味では「記述的」な数理モデルの使い方かもしれない.古生物学で実践されてきた理論形態学(theoretical morphology)のように,モデルのパラメーターを変えて生じる仮想パスタの“かたち”を見てみたい気になる.系統樹上で同じ“単系統群”に属するパスタであっても,数理モデルの基本構造は必ずしも共通してはいないようだ.貝殻の形態記述数理モデルの「系統推定」の例がすでに発表されている.パスタの数理モデルの多様性をその embranchements ごとにでも(全体はムリっぽいから)系統推定できればさらにおもしろいかもしれない. 

ひとつ気になるのは,パスタマシンとの関係.それぞれのパスタは機械的に製造されているものと思うが,それぞれのパスタマシンはパスタごとに“特殊化”しているのだろうか.パスタマシンの系統発生にも関心が向いてくる.実際には,イタリアの地でパスタはリアルな“系統分岐”を経験したにちがいない.その時空的な歴史を推定することもきっと可能だろう.

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JR九州車両デザイン系統樹

この件については,昨年末からいくつか記事を書いているが,『系統樹曼荼羅』の共著者・杉山久仁彦さんから情報を得たので備忘メモ.この「JR九州車両デザイン系統樹」は,JR九州ホールにて昨年末からつい先日まで開催されていた:

 〈水戸岡鋭治の幸福な鉄道展

の展示パネルのひとつである.杉山さんがこの展示の図録作成に関わっていたことから,企画段階でJR車両の「デザイン系統樹」が描いてはどうかと水戸岡さんにもちかけたらしい.

なお,この「JR九州車両デザイン系統樹」は〈幸福な鉄道展〉会場で販売されていたとのこと.

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